Home / 恋愛 / お嬢!トゥルーラブ♡スリップ / 【第1部】 第6話 似た者同士

Share

【第1部】 第6話 似た者同士

last update Last Updated: 2025-06-02 17:47:08

 次の日、私は朝からハイテンションなヘンリーを相手にしつつ、静かに怒りを放つ龍をなだめ続ける作業を繰り返す。

 なんとかこの朝を乗り切った私を、褒めてあげたい気分だ。

 ヘンリーを学校へ連れていくわけにはいかないので、私が学校へ行っている間はこの家で大人しくしてもらうしかない。

 確か今日の夕方、祖父が旅行から帰ってくる予定だ。

 ヘンリーのことはそのとき祖父に説明しよう。

 私は目の前でニコニコと微笑むヘンリーに向かって、真剣な表情で言い聞かせる。

「じゃあ私は出掛けるけど、この家から絶対に出ちゃ駄目だからね。

 家では自由にしてくれていいから、大人しく待ってて」

 ヘンリーはうんうんと何度も頷いて見せる。

「うん、わかった。流華、早く帰ってきてね」

 キラキラと輝く瞳で寂しいアピールをしてくるヘンリーは、私に向けブンブンと手を振った。

「……行ってきます」

 一抹の不安を覚えながら、私は学校へと出かけていった。

 登校途中、いつもの並木道を通りながら私は頭を悩ませていた。

 いろんな心配ごとが次々に頭を駆け巡っていく。

「わかってるだろうけど、私がいないからってヘンリーに手出したら駄目だからね」

 斜め後ろに控えている龍の方へ振り向き、私は釘を刺す。

「……承知しております」

 私は横目で龍の表情を盗み見る。

 いつも通りの無表情。一体何を考えているのやら。

 私のいない間、できれば二人きりになって欲しくない。

 昨日の惨事を思い出しながら、私はげんなりする。

「では、私はこれで」

 学校が近づくと、静かに龍は姿を消した。

 龍は私の登下校に必ず付き添う。

 これは龍と出会ってから、かれこれ五年間ずっと続いていた。

 他の生徒に見られるようなことはせず、学校が近づくと、ある一定の場所でいつも龍は姿を消す。

 どうしても外せない用事以外は、私から片時も離れない。

 離れているときでさえ、私のピンチのときは必ずどこからともなく現れる。

 途中、そんな龍のことをうざく思ったときもあったが、今や彼の存在は空気のようなもの。近くにいることを疑問に思うことすらなくなった。

 ふと、考えることがある。

 龍は私といて幸せなんだろうか、と。

 いつも私のことを考え、自分のことは二の次。

 時には組のことより私を優先してしまう。

 龍はそれでいいのだろうか。

 龍は優秀な人間だ。その頭脳も身体能力も人より秀でている。

 組の中、いや堅気の中にさえ、彼より優れた人間を私は知らない。

 そんな彼が、私の下でただ私の面倒を見続ける人生……それでいいのか?

 大きなため息とともに、私は机に突っ伏した。

 教室内では、皆楽しそうに友達とおしゃべりしている様子が覗えた。

 生徒たちの賑やかな声が耳に届いてくる。

 朝のホームルームが始まるまでの間、皆思い思いに過ごしていた。

「る~か~! どうしたのっ? そんな大きなため息ついて」

 親友、桜井(さくらい)貴子(たかこ)の顔が私の眼前に迫る。

 私は驚いて顔を少し上げる。

 貴子は綺麗にミックス巻きした自分の髪をクルクルと手で遊びつつ、可愛い笑みを浮かべている。

「ちょっと、朝から疲れちゃって」

「へー、何、何? どういうこと?」

 貴子は私が座っている椅子に無理やり自分のお尻を乗せてきた。私達は一つの椅子にお尻を分け合い仲良く座るという構図ができあがった。

 彼女のつけている香水の匂いが鼻をかすめる。

 甘くて女の子らしい香り……私には絶対似合わない。

 貴子はとことんマイペースな子だ。

 それは彼女がお嬢様だからかもしれない。

 彼女の家は超がつくほどお金もち。

 小さい頃から蝶よ花よと育てられ、俗にいうお嬢様気質になってしまったのだろう。

 彼女に悪気はないが、どこか我がままで人の気持ちを考えられないところがある。

自分の思うように物事を進めてしまう癖があった。

 そんな彼女についていける者は少なく、貴子は中学の時、転校してすぐに誰とも打ち解けられず、早速ぼっちになっていた。

 そんな彼女が目をつけたのが、これまた変わり者扱いを受けていた私。

 私も家が極道ということもあり、周りからは浮いていた。

 彼女は私となら分かり合えると思ったのか、貴子は私に懐き、擦り寄り、毎日のように絡んできた。

 ああ、懐かしい。

 私も別に彼女のことは嫌いではなかったし、特に避ける理由もなかったので、貴子を遠ざけることはしなかった。

 それからというもの、彼女は私の側を離れなくなってしまった。

 事あるごとに、私の周りに現れ、付きまとう。

 私は貴子と付き合っていくうちに、彼女はすごく純粋で子どものような人なんだと理解するようになった。

 とても正直で嘘がないから、一緒にいて楽だ。

 人の顔色ばかり窺ったり、お世辞言ったり、悪口言うような人よりよっぽどいい。

 彼女の前では余計なことを考えず、ありのままの私でいられた。

 そんなこんなで、貴子とはいつの間にか親友という関係になっていたのだった。

Continue to read this book for free
Scan code to download App
Comments (1)
goodnovel comment avatar
憮然野郎
流華も貴子というどこか境遇の似た素敵な親友ができてよかったですね......
VIEW ALL COMMENTS

Latest chapter

  • お嬢!トゥルーラブ♡スリップ   【第2部】 第33話 気持ちの乱高下②

    「なんでもない。……それより、デートはどうだったの?」 なんでこんなこと聞くかな。  すぐに後悔した。 本当は聞きたくない。でも、気になる。「少し二人で歩いたあと、お食事して、果歩さんを家まで送ってきました。それだけです」 龍の視線は真っ直ぐに私に向いている。  そこに嘘はないんだとすぐにわかる。 それなのに――「で、どうだったの?」「は?」「感想よ。楽しかったとか、嬉しかったとか、果歩さんが可愛かった、とか……。  いろいろあるでしょ?」 ああ、また余計なことを。  口が勝手に動く。  止まらない。「もしかして、焼いてくれているんですか?」 龍が嬉しそうな顔をする。 なんだか、腹立つ。「そんなんじゃ……ない、わよ」 声はしぼみ、つい目をそらしてしまう。 面倒な子って思われないかな。 私はそっと龍の表情を盗み見る。  ……そこには、照れくさそうにはにかむ龍がいた。「嬉しいです……。お嬢にそんな風に思っていただけるなんて。  それだけで、俺は果報者ですね」 そのまま、私は龍に優しく抱きしめられる。  彼の体温がじんわりと伝わってきて、心が静かに波打った。「こりゃ、こりゃ……わしは邪魔じゃな」 祖父がこそこそと部屋を出て行く気配がした。「ふふっ、親父も本当は私たちに悪いって思っているんですよ。  素直じゃないですけど」 龍の言葉に、私は眉をひそめる。「本当に? そうは思えないんだけど」 二人でくすくすと笑い合う。 龍の腕が緩み、私たちは至近距離で見つめ合う。「流華さん、俺が愛している女性はあなただけです。  何度も言っているとは思いますが……他の女性が入る隙など、ありません」 熱い瞳で見つめられ、胸の奥がきゅっと締め付けられる。

  • お嬢!トゥルーラブ♡スリップ   【第2部】 第33話 気持ちの乱高下①

     ヘンリーと別れた私は、家に帰ると真っ直ぐ洗面所へと向かった。  手を洗い、うがいを済ませたとき、ふとテレビの音に気づく。 その音源は、どうやら居間からのようだった。 ふと、私をこんな事態に陥れた張本人の顔が脳裏に浮かぶ。 気づけば、自然と足が居間へ向かっていた。  部屋をそっと覗き込んだ私の目に飛び込んできたのは、新聞を広げながら呑気にあくびをしている祖父の姿だった。 私は小さくため息をつく。「お、流華、お帰り。龍はまだじゃよ」 私に気づいた祖父が、笑顔を向けてくる。 こっちの気持ちも知らないで。「……わかってる」 少しムッとしながら、祖父と机を挟んだ反対側に腰を下ろした。  怒っていることを察してほしくて、わざと乱暴に座る。 だが、祖父は怪訝そうに眉をひそめるだけで、不思議そうな顔をした。「なんじゃ、不機嫌そうに。そんなんじゃ、龍に愛想つかされるぞ」「おじいちゃんに言われたくないわよっ!」 大きな声が部屋中に響く。 さすがの祖父も、驚いて目を丸くした。「な、なんじゃ?」「おじいちゃんのせいでしょ! 私たちずっとうまくいってたのに……めちゃくちゃよ!  そんなに私たちの邪魔して、楽しい?」 感情をぶつけるように睨みつけると、祖父の表情が一瞬だけ怯んだように見えた。  しかし、すぐに余裕の笑みへと変わっていく。「ふんっ、これくらいでダメになるようなら、いつかダメになっとるわ。  本当にお互いを信頼していたら、心は揺れん」 痛いところを突かれ、私はぐっと言葉を飲み込む。「そんなの、わかってる。  わかってるけど、不安になるでしょ? 好きであればあるほど、苦しいの!  おじいちゃんにはわからないよっ!」 悔しさに駆られ、勢いよく立ち上がった。 振り返り様に誰かに思いっきりぶつかってしまう。「いたっ!」

  • お嬢!トゥルーラブ♡スリップ   【第2部】 第32話 手強い相手②

     そのまま迷いのない動きでヘンリーを交わし、何事もなかったかのように私の目の前にやってくる。「なっ……」 ヘンリーは絶句し、相川さんを凝視する。 相川さんは至近距離から私を見下ろし、優しい笑みを浮かべた。  頬に触れながら、熱っぽい瞳を向け、そっと囁く。「僕を、選べばいいのに……。  そうすれば、そんな悲しそうな顔をして一人で泣くことはない。  僕は絶対にあなたを悲しませたりしない。  流華……僕を選べ」 自信に満ちた表情。  口元は笑っているのに、目は鋭く、まるで獲物を捉えるように私を貫く。 その視線から、目を離せなかった。「流華、好きだ」 ゆっくりと相川さんの顔が近づいてくる。 私は彼から逃げようとする。  が、金縛りにあったかのように動けない。「ダメーっ!!」 突然、ヘンリーは相川さんに思いきり体当たりをした。  しかし、相川さんはそれを察知していたかのような素早い動きで身をかわす。 そのとき、はっとし我に返った。「ヘ、ヘンリー?」 戸惑う私を背に庇いながら、ヘンリーがこちらへ顔を向け微笑む。「へへっ、僕が守るって言ったろ?」 なんだかとても誇らしげな表情。  私を守れたことが、よほど嬉しいらしい。「ありがと……」 心からほっとした。 もし邪魔が入らず、あのままだったら――。 不覚!  なんであんな状態で固まっちゃうかな、も~!  これでは、相川さんの思うつぼだ。 彼の瞳には、人を惑わす力があるのかもしれない。  あの瞳に見つめられると、思考が止まるっていうか、ぼーっとするというか……って、そんな摩訶不思議なこと。 何なの?  もうわけがわからない!  とにかく、相川さんには気をつけなくちゃ。 ごちゃごちゃする思考を振り払い、集中する。 ヘンリーと並び、相川さ

  • お嬢!トゥルーラブ♡スリップ   【第2部】 第32話 手強い相手①

     そこにいたのは、相川真司だった。  意外そうに目を見開き、こちらを見つめている。「おまえ……」 相川さんに気づいたヘンリーが、鋭い眼差しを向けた。  だが、そんな視線など意に介さず、相川さんはニコリと微笑み、ゆっくりと私たちの方へ近づいてくる。「こんなところで何してるんですか?   ちょうど流華さんのところへ行こうかと思っていたんです。偶然ですね」 嬉しそうに私を見つめる相川さん。  その視線から守るように、ヘンリーが私の前に立ちはだかった。「今、流華はおまえに会いたくないってさ」 背中越しで顔は見えないが、ヘンリーから珍しい男らしさが漂ってくるのを感じ、驚く。「そうなんですか?  それは……彼女の涙と関係あるのかな?」 余裕のある声音で、相川さんが問いかける。 さっき私が泣いていたのを、見られていた?「それとも、龍のせい?  だったりして」 核心を突かれ、心臓が痛む。 今この人から逃げたところで、何も変わらない。  ――ちゃんと向き合ったほうがいい。 そう思った私は、覚悟を決め、ヘンリーの背中から抜け出した。 相川さんの前に姿を現すと、彼の目がわずかに見開く。「流華さん……大丈夫ですか?  心配していました」 相変わらずの笑みを向ける彼とは対照的に、私は真面目な顔で問い返す。「なんで心配なんて?」「だって、今日は龍と果歩のデートですから。流華さん、辛いだろうなあと思って」 相川さんは、気持ちを探るような目で見つめてくる。 知ってたんだ……そりゃそうだよね。  果歩さんは妹なんだから、今日のことを知ってて当然。 彼に弱みを見せないよう、まっすぐ見返した。「心配は不要です。私は大丈夫ですから」 少しでも弱みを見せたら、つけこまれる。  ここは平然とした態度を見せないと。「そうだよ!  それに、流華には僕がいるから!

  • お嬢!トゥルーラブ♡スリップ   【第2部】 第31話 せつない気持ち②

     私は一人、家へと続く道を歩いていた。 疲れた……。  さすがに、全力疾走はキツかったか。  なんて思いながら、ふと空を見上げる。 もう、陽射しが傾き始めていた。 まっすぐ帰ればいいのに、どうしてもその気になれない。  気づけば、足はいつもの公園へと向かっていた。 変わらない景色、のはずなのに。  夕焼けに染まった公園は、少しだけ寂しく見えた。 たぶん、私の気持ちがそうさせているんだろう。 ギィ……ギィ……。 ブランコのチェーンが軋む音が響く。  その寂しげな音が、今の自分の気持ちと重り――吸い寄せられるように腰掛けた。 龍、今頃どうしてるかな……。  早く会いたいよ。 声が聞きたい。  抱きしめてほしい。  あなたの気持ちが知りたい。 視界がぼやけていく。  気づけば、涙が頬を伝っていた。「流華ーっ!」 ふいに、遠くから声がした。  驚いて顔を上げると、こちらへ向かって駆けてくるヘンリーの姿が見えた。「……っ、どうして……?」 驚いて目を瞬かせる私の前に、ヘンリーがやってきた。  肩で息をしながら、まっすぐに私を見つめてくる。「はあ、はあっ、はあ~。  流華って足早いよねー。僕、普段運動しないから体力なくって」 まだ息があがる中、ヘンリーは私に微笑みかけた。 私のこと、追いかけてきてくれたんだ……。  その想いに、なんだか胸が熱くなる。 ふと、あたりを見回す。 貴子がいない……帰ったのかな?「貴子は?」 ヘンリーを見つめると、彼は後ろを一度振り返ったあと首を捻った。「うーん。僕、流華のことが心配で……夢中で走ってきちゃったから。  桜井さんのことはわからないや」 ヘンリーはニコリと微笑んだあと、もう一つのブランコに腰掛けた。

  • お嬢!トゥルーラブ♡スリップ   【第2部】 第31話 せつない気持ち①

     龍と果歩さんの背中を、何かに取りつかれたようにじーっと見つめる。 お似合いな雰囲気に、私の気持ちはどんどん落ち込んでいく。  もうそりゃ、石ころが坂道を転がっていくみたいに、気持ちがコントロールできない。 肩や腕が少し触れ合うたび、果歩さんは頬を染め、恥ずかしそうに俯いた。 龍も、まんざらでもないような……。  いや、ダメだ、そんな風に疑っては。 自分を戒めるように小さく頭を振った。 物陰に身を潜めながら、慎重に足を進めていく。 龍たちが動けば、私たちも動く。 ふと周囲を見れば、行き交う人々が遠巻きにこちらを訝しげに眺めていた。 そりゃそうだろう。  だって私たち、相当怪しいもん。 ほんと、何やってるんだろう……とさらに落ち込む。 こんなことして。  これって、龍のことを信じていないってことにならない? 龍もこんな気持ちだったの? 私のデートのとき、龍はあとをつけていた。  あのときは、ついカッとなってしまい、叱りつけてしまったけど。 龍の気持ちが今になって痛いほどわかる。 私、なんて酷いことを……。 反省――「流華、何してんの? ちゃんと見てないと見失うわよ」 貴子の声にはっとする。 反省のポーズをとっていた手を下ろし、視線を龍へと戻した。 果歩さんを人混みから守るように、龍は人通りの多い側を歩いていた。  さりげなく周囲に気を配り、彼女が困ることのないように気遣っているように見える。 いつも、私にも当たり前のようにしてくれていたこと。 でも、それは……誰にでもすることだったんだ。「流華、拗ねてる顔も可愛いよ」 ふいに、視界いっぱいにヘンリー――いや、透真くんの整った顔が飛び込んできた。 驚いた私は少し距離を取り、ぎこちなく微笑んだ。「ありがと。ヘンリーも、相変わらず可愛いね」「流華、大好

More Chapters
Explore and read good novels for free
Free access to a vast number of good novels on GoodNovel app. Download the books you like and read anywhere & anytime.
Read books for free on the app
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status